【公職選挙法の参院選改定】その1
いよいよ来年夏の参院選から適用される、公職選挙法の改正が大詰めになってきました。国会では、反発している野党のみなさんが「登校拒否」(与党の人の発言より)を続けています。審議に応じない野党のみなさんも大人げないけれど、与党のみなさんは自分たちだけで審議してどんどん自分たちの思い通りに法案を可決して何を考えているのでしょうか。民主主義とは、とことん最後まで語り合って皆で情報を共有してお互いの要求の妥協点を見つけあう政治制度だと思うのですけれど。
さて、今回の改定の問題点はいくつかあります。「政党を記入しても、候補者名を記入してもいい?」「非拘束名簿方式?」「必要性?」「全国区?」の4つが特に大きな点なのです。
比例代表選に△山☆夫という人が珠砂党から立候補しているとして例を挙げます。
〈政党名を記入しても、候補者名を記入してもいい?〉
与党の話によれば、「人物本位の選択をしてほしい」そうです。というわけで、名簿に掲載してある候補者名を投票用紙に書いてもオッケーにするそうです。
例:選挙民は△山のいる珠砂党を躍進させたいと考えました。現行の制度ですと、「珠砂党」に投票します。改定後は、「△山☆夫」でも「珠砂党」のどちらに投票してもかまいません。
〈非拘束名簿方式?〉
今までの選挙では各党内の名簿に掲載される順位の上位から議員になれました(名簿の順番に縛られるから拘束名簿方式)。そういうわけで党内で名簿を上位にしてもらうためにいろいろ暗躍しなければいけませんでした。そういった暗躍をなくすために、名簿に順位をつけることをやめることにします(名簿の順番に縛られなくなるので非拘束名簿方式)。
これからは、各政党ごとの得票の中で「個人名」の得票数の多かった順に当選が決まることになります。
例:開票後、珠砂党は2番目の得票を得ました。というわけで、17人の議員を当選させられます。△山は得票数では、珠砂党内では党首のたまねぎ須永の次に多かったので、2番目に当選が決まりました。党内で18番目だった□谷※子は落選となります。
〈必要性?〉
なぜ、今、この時期に選挙制度を変えなければいけないのか? これに答えることのできる言い訳はありません。ただ、単に今年春から夏にかけて発覚した自民党議員の不祥事から世間の目をずらそうという党利党略のためだけの改定です。
不祥事の明らかになる過程で、自民党内では比例代表選の名簿の順位を上げるために党員を大量に獲得して、党費を集めなければいけないことが明らかになりました。党費を企業に肩代わりしてもらって党員を大量に集めた、という不正が行われるような議員達の倫理が問題だというのに、「拘束名簿方式」が悪い、という素敵な話の進め方が今回の改定の理由です。暴走族がうるさいのはバイクを売る業者が悪い、というのと同じ論理展開です。
自分たちの採用条件を好き勝手に変えることのできる職業はそんなに多くありません。私も採用条件を好き勝手変えることができればいいのになぁ……。
〈全国区?〉
現行の参院選では、全国を大きくいくつかの選挙区にわけて比例代表選は行われています。当たり前のことですが、選挙民の住んでいる選挙区に支持政党が候補者を送り込んでいなければ、その党に票を投じられません。ですが、今度は全国単一選挙区になります。そうなると、全国で同じ政党の中から選んで投票することができるようになります。
問題は……、「非拘束名簿方式」と「大きな選挙区」の相性が悪いことです。「拘束方式」では名簿にうまく上位に書き込まれれば、選挙運動はおざなりでもなんとかなります。ですが、「非拘束方式」では、所属政党の中での得票数順に当選が決まります。
例:△山は小説「めけめけ谷に星は堕ちる」で全国的に評判の作家です。彼のおかげで珠砂党は前回選挙の29位から、今回は2位まで躍進できました。「珠砂党」と書かれた投票用紙よりも「△山☆夫」と書かれた投票用紙のほうが多かったそうです。
党首のたまねぎ須永は△山より得票数を得るために、秒単位のスケジュールで全国を飛び回って演説を行い、テレビラジオでは1日中選挙広告を垂れ流し、町中の壁にポスターを貼り付けました。これに数兆円かかったといわれています。
□谷は地元だけで選挙運動を行いました。金も時間もコネもない専業主婦が立候補したからでした。□谷の居住地域での珠砂党の得票数が、前回の選挙時の2倍近くに膨れ上がっていたものの、「□谷」と書かれた投票数が少なかったおかげで当選することはできませんでした。
【公職選挙法の参院選改定】その2
自民党加藤派(元)所属の齋藤十朗前参院議長のとぼけた斡旋案が引き起こした騒ぎの中で、結局公職選挙法改定案は参院選で強行採決され、衆議院に送られました。
さて、今日は「なぜ、こういう騒ぎになったか」について語っていきます。なお、ここで述べる須永の情報源は、「東京新聞」、「AERA」、「ごまめの歯ぎしり メールマガジン版」、「ざ・にじゅういち」、「永井えいじ国会ニュース」などです。もちろん、下記には私なりのゆがんだ視線が入っています。アンチ主流派という思想の持ち主が須永なのです。
まず、今回の改定で、実は野党も得をしそうな雰囲気があります。それは「投票欄に人名を記入できる」ということです。日本では政党というものが世間にまだまだ受け入れられていません。あなたのまわりに党員になっている人がいらっしゃいますか? 須永の知人で党員になっている人はいないような気がします(私がしらないだけでもしかしたら党員の人もいるかもしれませんが)。
というわけで、与党と同じように政党名にではなく個人名に投票できる改定案は決して野党に最悪というわけではありません。まぁ、既存政党で一番党員の多い共産党は別かもしれませんけれど。
では、なぜ、今回これだけ国会が混乱したのでしょうか?
それは、すべては来年夏の参院選を皆がにらんでのことです。与党はこのままいけば来年夏の参院選も負けると考え、自民党黄金時代を支えていた参院選比例代表全国区の復活を図ることにしました。逆に野党はとりあえずアンチ自民党を増やすため、とりあえず反対して、がんばっていると国民にアピールを図ります。簡単にいえば、こんな図式です。
与党は今年の衆院選でもここ数年の流れに従い、都市部で散々な目に遭いました。都市部の住人に何ら益のない公共工事頼りの景気回復策を行ってきたおかげです。都市部の住人にとって公共工事とは、年度末に行われる道路工事による渋滞といったイメージが強くマイナスイメージでしかありません(これは私だけの印象か?)。
今回の敗北で、自民党若手議員が「明日を創る会」を設立し、党内改革に声をあげていこうとするプラスイメージ作りの動きもあります(だが二世議員が数多く参加していることはどう働くのか?)。それ以外にも公共工事見直しの動きもありました。これで自民党も利権に直接関われない都市部住民を視野に入れるのかなぁ、とか思っていたところへ、今回の参院選向けの公職選挙法改定の動きです。
野党は今年の選挙で勝てませんでした。既存野党の社民党、共産党はおろか、結局自民党出身の幹部を持った民主党、自由党でさえもが実際に政治の担い手になれると国民は思えなかったわけです。政権を担える実力(実際の政権実行能力など)を野党が持つという幻想に国民が夢を託すことができるほど現在の経済状態は楽観視できるものではなかったわけです。政党というものを皆が否定しているというのが今夏の選挙結果です。
さて、今春、与野党でとうぶん公職選挙法は変えないよ、という取り決めがされました。ですので、今回の与党による選挙制度改定に野党は怒るわけです。「話が違うじゃないか!」
せっかくうまく攻めることができていた久世前金融再生委員会委員長の問題が、自民党内の比例代表選向けの名簿の問題に波及し、そしてなぜか「名簿があるから悪いんだ」という自民党の悪あがきにつながったのが気にくわない、という点もあります。
数年前、政権を追われた自民党はなりふり構わない態度で、現在政権を運営しています。お互いに論議を重ねて、双方納得して政策を実行する、という民主主義の原則は、精神的余裕のあった昔の自民党は尊重しているふりをしていました。ですが、(彼らにとっての)地獄を見た自民党は、そんなふりをもうしません。つまり、自民党に民主主義は根付いていなかったわけです。
なので、野党が出席していなかろうが、「俺達だけで法案成立できる制度だから勝手にやるぜ」と与党はどんどん自分たちだけで審議を進めていきました(それを審議といえるのか?)。
むろん、野党のトップっぽい民主党の幹部はほぼ元自民党の人たちばかりです。ですので、現役自民党の人よりは多少まし、というだけで民主主義なんて体得できていない人ばかりです。だから、「どうせ与党に何を言っても無駄だから、審議に応じても無駄だな」ということで今回の審議拒否という戦術が採られました。まぁ、今月中にどんな手を使っても採決してやるぜ、という与党に責任の大部分があるといっても、野党もあまりうまい戦術ではなかったはずです。
最後に、来年夏の参院選の予想をしてみましょう。
わがままし放題だった与党は、もちろん党に対する支持は落ちる一方です。自民党は、長島監督を担ぎ出すことに成功し、どうにか現議席を維持します。保守党は壊滅です。公明党は自民党に魅力を感じさせるだけの議席を維持することはできないでしょう。
今回の公職選挙法改定時の騒動でますますの政治不信は加速することでしょう。というわけで、野党の支持層である浮動層・無党派層の棄権が相次ぎます。というわけで、結局野党も散々な目に終わります。共産党は先程行われた綱領改正でコアな支持層を失い、それでも都市住民に受け入れられることなく一番損をするのではないかと思われます。
選挙制度改革で一番得をするのは、選挙運動にかかわる業界の人たちだけになることでしょう。今まで以上の金がその業界に落ちることは疑いようありませんから。
その3
2000/10/26衆議院で可決されました。
自民党若手議員河野太郎氏発行の「ごまめの歯ぎしり 10月26日号」(メールマガジン版)から関係のある記事を転載してみます。これは感情的にならずに、うまくまとめられたいい考えです。与党のやり方に対する怒りをアピールするしか、攻め方・批判の仕方を知らない野党政治家やマスコミは反省してもらいたいものです。
参議院選挙改革採決。非拘束名簿方式はプラス。しかし、選挙運動の規制が甘く、費用がかかる可能性が大なのはマイナス。人口と定数の逆転区解消はプラス。定数削減はマイナス(注 地方議会をはじめ、定数削減が良いことだという風潮があるがこれは大きな間違い。議員数が減れば、議会の目が届く範囲が狭まり、行政がのさばる。議会が機能していないことそのものが問題であり、そのシステムを直すか、議会を機能させることができる議員を選ぶべき)。正直、今回の国会運営を見たうえでの次回選挙への不安は、ますます棄権が増えるのではないか、ということです。参加しているサークルの知人の一人は、めんどくさいし、どうせかわんないし、ということで今年の衆院選挙を棄権していました。私の弟も棄権していたようです。
票の横流し現象の批判は確かにあるが、現行制度では、順位に民意は全く反映されないので、拘束名簿方式より良いことは間違いない。今年の総選挙で比例代表の候補者が、どんなに大変な思いをしたことか。タレント候補有利などといわれるが、そこまで有権者をなめてはいけない。一億二千万人の常識が、一握りの専門家の知識を上回るということは、金融行政の失敗でも明らかになった。
この改革で自民党有利になるか。なるわけないだろう。自民党参議院執行部の戦略ミス。党の体質の抜本的な改革が必要なのは、何も変わりない。それをやらずに、この小手先の改革でごまかそうとは思っていないと思うが。もしそうならば、大敗だ。
棄権が増えれば、結局、組織票が選挙結果を左右することになります。つまり、既存勢力というか与党有利ということになります。そうなると、ますます与党の数の暴力が強力になり、まともな論戦のできる政治家が与野党にいないので(弁論力のないベテラン政治家しか論戦の舞台に立てない/そういえば森さんは早稲田の弁論部出身でしたっけ?)、国会に誰も注目しなくなります。でも、国会で生活基盤の改造は行われます。あぁ、なんかいやだぁ。
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