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4−2(ケアルの物語)


 ガルデンを抜け出たケアル、シェーナ、グレーヌの三人はロードハルをめざしていた。

 ロードハルは「道」に厳しい求道者たちの国にある。「道」を司る神コムを信奉する騎士団が治める国、「聖イリス騎士団領」である。
 シェーナが《絶望の牙》と呼ばれるほどの冒険者ではなかったころの縁故がロードハルにいるのだそうだ。その縁を頼って、彼らはロードハルをめざしていたのである。

 道中の一夜のことだった。ケアルはいつものように、シェーナやグレーヌにちょっかいをだそうとしていた。そんな夜だった。
 グレーヌ姫は慣れぬ道中の疲れで、すでに寝ついている。焚火の周りに起きているのはケアルとシェーナだった。いつものようにケアルがくどく。普段は無視するシェーナが珍しくケアルの瞳を見つめる。
「ケアル、風は好きですか」
 女は挑むように男の瞳を見ていた。女の体は微動もしない。じっと一心に……。
「……あぁ……」
 視線に気圧されつつも、なんとか男はうなずく。
「……私がなぜ《絶望の牙》と呼ばれるのか、わかりますか」
「その杖の名前ではないのかい? わたしが姫を救い出しにいったときのあの力はすご かったなぁ」 「この杖の力を最大に引出すには……」
 シェーナは杖を左手でなでている。その手は焚火の光を浴びて、朱であった。
「使い手が人肉を喰らわねばならないのです」
 西北から吹き下ろされた風が砂を巻き上げる。その砂は、ケアルの目を襲っていた。
「嫌な風だな」
 砂をはらおうとした手を何かが邪魔した。視力の回復した瞳には間近に女の髪の毛が 入っていた。
「これからの戦いには、最大の力を引出さねばならないのでしょうね」
 話す女は顔を見せない。が、男の胸には冷たく染み込む液体があった。
「わたしがいるんだから……、杖の力はいらないさ。大丈夫さ」

 翌朝、元気なグレーヌに頭を蹴られ、ケアルは目を覚ました。シェーナはいつもと同じように朝食を作っていた。


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