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4−1(神子ザースの物語)


「私の《神子》としての仕事はこれで終わりです」
 そう言って、トワンは後継者の顔をじっと見つめた。
「ながいあいだ御苦労なことでしたな。これからは私が責任をもって《神子》の重責を果たしてさしあげましょうぞ」
 ザース・コワードの言ったことを聞いた先任の《神子》は顔を曇らせつつ、ザースの顔を眺めていた。
「これから私の最後の仕事、《神子》の力と義務についての説明をしてあげましょう。私も任じられる前にはあなたのように、この力に期待をしていた……。いえ、野心を持っていた、慾を感じていたというほうが正しいでしょうか」
「ほぅ、トワン殿にも野心や慾があったとは意外でしたな」
 トワンは後ろを向き、垂らしていた淡い黒色の髪をかきあげる。髪に隠されていた首には丁字形の火傷があった。
「これは180年ほど前の奴隷につけられていた焼きごての跡です。あの頃は、力に飢えていました。奴隷から逃れることのできる力……」
 最後の務めに疲れを見せつつ、女は男に向き直り首を振る。
「私の過去はともかく、私に残された力も少ないので説明を始めさせていただきます」

「この力はアラウネ様に授けられたということはわかっておりますね。では、アラウネ様という存在から話し始めましょう。
 アラウネ様は大地ができる前からいらっしゃいます。『古えの蜘蛛』とともに長い刻を過ごしてこられたそうです。そして、蜘蛛の死とともにアラウネ様は眠りにつかれまし た。孤独を忘れるための眠りだと、先代からは伝えられております。
 滅びた『古えの蜘蛛』の体から神々が生まれたのは魔術師たるあなたならご承知でしょう。蜘蛛の体は大地となり、8つの足は8柱の神々がお生まれになった。このことは広く知られたことですが、実は蜘蛛の頭からも神が生まれていたのです。その頭から生まれた神は秩序と理性を司り、〈法〉の神ジルダンと名乗っていました。その神は〈混沌〉たる魔法と感情を否定し、他の神々をも、その支配下に加えようとしました。そこで8柱の神は協力し、ジルダンを封印することに成功しました。が、封印を安定化することは難しく、アラウネ様を頼ることになりました。
 アラウネ様による封印は、この地、ガルデンの都市の地下に置かれました。そして、人間界で封印を守ることのできる人物を任命しました。それが《神子》です。また、《神子》にはアラウネ様が封印することに飽きないように退屈なときの相手をするという役割もありました。
 ということで、《神子》の義務は、『封印の維持』と『アラウネ様の遊び相手』という義務があります。《神子》の力はどれくらいのことができるのかはわかりませんが、〈小王国群〉のなかでなら都市国家を一瞬で粉々にすることくらい容易いと先代から伝えられました」
「それだけの力があって、どうして今回のセリアのガルデン侵攻に対して、力をふるわなかったのですかな?」
 口の端を歪めながらザースは問う。
「ここ数年、《神子》の継承の時期のため地上に力をふるうことができなくなってきていたんです。ですから、最近は《法》の信者も増えつつあります。封印が緩み始めているのでしょう。《神子》の継承者の最初の仕事はいつも《法》への封印の確認・補修からです。急ぎ足になってしまいましたが、これで説明は終わらせていただきます」
 先代の《神子》トワンは150年に渡る仕事を果たし、現界へと戻っていった。


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