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3−8(クライシスの物語)


 街道からなかなかはずれた地を戦士は訪れていた。連れはいない。一人である。
 この時代、一見のどかに見える農村といえども死の香りは漂っていないわけにはいかなかった。だが、死を振り撒くのを職としている戦士の漂わせる香りには勝るものではない。
 〈小王国群〉の農村となれば、少々の死の香りには慣れているだけあって、死の香りを撒く者に対する警戒心も弱くはない。というわけで、戦士の訪問はあっというまに村人全ての知るものとなった。

「戦士殿、このような村にどのようなご用件ですかな?」
 夕刻、村に一軒だけある酒場である。戦士は杯を少々口にあて、村長の存在に気付いたかのように、そちらを向く。
「村長、なぜに人は支配に歯向わずに従っているのだろうか? わかるか?」
「は? 何をおっしゃられるかと思えば……」
「いやさ、わたしは真面目さ。支配に人が歯向わないのはなぜか、わかるか?」
「そうですのぉ、やはり武力を恐れているのではないでしょうか」
「おまえのところは、どこの勢力にも税を納めていないときく」
「ま、そうでございますが……。用心棒ですか?」
「いや、貴族ってもんに痛い目をあわせてみないか? っていう提案をしにきたのさ」

 次の日、村の集会により、戦士はこの農村を足掛りとすることができた。ここにまた一つ、〈小王国群〉の勢力が増加したのであった。
「我が村は、指導者が現れるのを待っていたかもしれんですじゃ」
「いや、人はみな平等なのだよ。わたしは民衆がみな政治に口出しできるような国を作りたいのだ」
 戦士の理想は村人らにとっては、まったくの夢想ごととしか思えなかった。だが、そこにひかれたのかもしれなかった。
 ちなみに、この村からガルデン市街まで馬の早掛けで1日であった。


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