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いなまきパニック!?

 この読み物は、リーフさんの著作物「こみっくパーティ〜」のキャラクターを使用したものです。仕上げもろくに行っていないような拙いものですが、お読みいただければ幸いです。

「最近、和樹の気持ちが気になってしょうがないんや……」
 と、相談したのは不思議なこと。猪名川由宇も春めいてきたようです。しかし、まぁ、相談した相手に少々問題があったわけでして……。
「ほぉ、吾輩に相談するとは、貴様も我々の同志になることを認めたということだな、猪名川由宇よ」
「いや、ま、何かと噂の多いあんたやけど、和樹の親友やさかいに、どうにか和樹の気持ちを探る手だてを知らんかと思ったん」
 アレンジしたスネ夫カットの長身の男、大志は由宇の体を上から下までジロジロと見定めます。
「うむ、やはり、な。この作戦が実行できそうだな」
 大志は懐をごそごそと探り始めました。由宇はその一連の動きを見て思うのでした。
(やっぱ、こいつに頼んだわいが、ばかやったんや)
「なりきりセットぉ!」
 大志は猫型ロボット風の声とポーズで、懐から取り出した袋を右手で掲げてみせます。
「寒すぎや!」
 由宇のハリセンが大志の頭を襲います。
「これはだな……」
 和樹をさんざんに苦しめているハリセンの一撃は大志には通用しません。彼はそんな由宇を無視して道具の説明を始めるのです。
「他人のふりをして同志和樹の気持ちを確かめようという作戦である。幸い、同志由宇は牧女史にどことなく背格好が似ているようでもあることだしな」
 受け取った袋の中身を由宇は取り出します。長髪のカツラ、こみパスタッフの帽子、インコム、由宇のとは違うフレームのついた眼鏡などです。よくよく袋の中を覗き込むと、こみパで牧村南が着がちな衣装が入っていました。
「これでうちが牧やんに見えるんかいな?」
「無論、こみパ会場でこみパスタッフの格好をするのは問題となるだろうから、それなりの注意は必要だが、これで同志由宇とは思われずに同志和樹と接することができるはず」
「これで和樹の気持ちが……」
「では健闘を祈るぞ」
 由宇が道具を見つめて固まっている間に大志は立ち去っていきました。
 さてはて、これからどうなることでしょうか。

  ☆  ★  ☆

 ピンポーン。
(こんな朝っぱらから誰なんだか)
 和樹はアパートの玄関を開けます。その顔にはトーン屑が大量に付着しています。どうやら、原稿製作中に作業台で寝てしまったようです。
「おはようございます、和樹さん」
 扉の前に立っていたのは牧村南でした。
 バタン。
 和樹は扉を閉じ、あわてて身繕いを始めます。洗面台で洗顔する際に、顔がトーンだらけなのに気付いたときにはかなり顔が真っ赤になったそうです。
 そして、数分後。
「まったく、和樹のくせにうちを待たせるとはいい度胸やな」
 イライラと扉の前で歩き回る由宇の姿がありました。牧村南の扮装もこれでは意味がありません。猪名川由宇ここに在り、といった感じです。
「お待たせしました」
 扉が開きました。
「あれ? 由宇の声がしませんでした?」
 あわてて由宇は優しげな表情を浮かべます。ほんわか、ほんわか、と由宇は心の中で呟きつつ、イライラした表情を隠します。
「由宇ちゃんですか、みかけませんでしたよ」
 そう言いながら由宇は和樹を見つめます。
(どうやら、うちやなくて、牧やんだと思っているようやな。あいつに感謝や)
「とりあえず中いいかしら」
 和樹の返答を待たずに由宇は中に入ります。ずかずかと作業台のある部屋へと入ります。由宇が数十回訪れたことのある馴染み深い部屋でした。
「あれ? 南さん僕の部屋は初めてでしたよね?」
「そうですけど、なにか?」
(なにか文句あるんかい!)
 内心イライラしていたものの、すっかりだまされている和樹の姿に笑いがこみ上げ始まる由宇でした。
「なんだか、慣れた様子で室内を移動されてたので」
 牧村の顔から汗からたれ落ちます。
(これはやばい……、和樹のくせに気付くんや!)
「そ、そんなふうに見えたんか? じゃなくて、見えましたか?」
「あれ? そういえば今日はなんでこみパスタッフの格好なんですか?」
 和樹は不思議そうに由宇を見つめます。
「こみパの打ち合わせの帰りなんですよ」
「あれ? 打ち合わせは普段着じゃなかったですか? この前見学しにいったとき、そうだったような」
(なんで和樹は打ち合わせを見学しに行っているんや? もしかして)
「牧やんを見に行ったんかい?!」
 拳をわなわな震わせながら由宇は和樹に迫ります。
「牧やん……って? 南さん?」
 頭の周りに?を飛ばしながら和樹は不安そうに由宇を見つめます。真剣な表情です。
(おっといかん、うちが今は牧やんだったんや)
 ハンカチで汗をぬぐいます。
「あれ、私何か変なこと言ってしまいましたか? 徹夜で打ち合わせをするとちょっと変なことを言ってしまうようになっちゃうの」
(これでごまかせるんか……)
「スタッフって大変なんですね」
 和樹は冷蔵庫から缶コーヒーを取り出して己と由宇の前に置きます。
「それじゃここまでわざわざきた理由は何ですか? さっさと解決して南さんには休んでもらわなくては」
(そうやな、ボロを出さないうちに素早く帰らんとな)
「和樹さん、由宇ちゃんのことどう思ってますか?」
 顔を真っ赤にして声に出しました。
(うちのことをどう思っているんや……)
 由宇は和樹の顔を一生懸命に見つめます。
 和樹は視線に堪えられず、作業台に目をやります。
「由宇……、猪名川由宇ですか。彼女は……」
 和樹は作業台を片づけ始めます。台の端にある封筒に気付いてそれをあわててそれを隠します。
(いまの封筒は確か……)
「……、南さんがどうして由宇のことを?」
 視線を合わさずに和樹が声をかけてきました。
(えぇと、どう答えればいいんや……)
 由宇が答えに詰まっていると、和樹は封筒を差し出してきました。先ほど、隠そうとしていた封筒です。
(これは、初めて和樹に出した手紙? まだ取っておいてくれたんか?)
「由宇は大事な存在です」
 和樹は封筒から由宇の書いた手紙を出しながら言葉を続けます。
「そう……、大事な存在なんです。もしかしたら、これが恋なのかもしれない……」
 由宇は差し出された手紙を受け取ります。冷静にみてみると、なかなか手厳しい内容の手紙です。ほぼ初対面に近い、こみパで知り合ったばかりの人物がここまで書いていいのか、あやしいところです。
「和樹……」
「あいつはいつも厳しくあたってくるけれど、あれがあいつの愛情表現だってことは分かっているつもりです」
 和樹は由宇の顔を見つめ返します。
「和樹、堪忍してや!」
 和樹の真摯な表情に堪えられなくなった彼女はカツラをはずして、彼の胸に飛び込むのでした。
「……、へ?」
 和樹は胸におさまっている女性を見つめます。
「ゆ……う?」
「騙すつもりはなかったんや、堪忍してや。あんたがうちのことをどう思っているのか自信がなかったんや……」
 和樹は由宇の頭を優しく撫で始めました。そして和樹はすべてを赦すようにうなずいてみせるのでした。彼女はそのうなずきを目にしたあと、恥ずかしげに笑みを浮かべるのでした。
 そして、夜は更けていくのでした……。夜は始まったばかりです。


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